7日から開幕する「第53回NHK杯体操」は、10月の世界選手権(中国・南寧)の日本代表選考会を兼ねている。男子は、既に世界選手権個人総合4連覇中の内村航平(KONAMI)が内定しており、今大会で2人の代表が追加される。5月の全日本選手権での得点の半分が持ち点として繰り越され、全日本選手権優勝の内村を除くと、同2位・野々村笙吾、同3位・加藤凌平の順天堂大学コンビが選考争いでリードしている。次世代のエースと目される20歳の野々村と加藤は、揃って代表入りとなるか。女子は7日、男子は8日に東京・代々木第一体育館で競技が行われる。
(写真:チームメイトでありライバルでもある野々村<左>と加藤)
 順番に記者会見に臨んだ野々村と加藤。2日後に迫る試合に向けてのコメントは、図らずも同様のものだった。リスクを冒さず順位を守る――。世界選手権の代表入りを優先することだった。

 ジュニア時代から将来を嘱望されてきた2人。高校時代はインターハイ王者の野々村がリードしていてたが、順大に進んでからは加藤の活躍が目立つ。11年、東京で行われた世界選手権ではともに補欠だったが、12年のロンドン五輪に出場したのは加藤。日本の団体銀メダル獲得に貢献すると、翌年の世界選手権では個人総合で銀メダルを手にした。オールラウンダーとしての実力は内村に次ぐ存在と言っていいだろう。加藤が脚光を浴びた頃、野々村はロンドン五輪、世界選手権のいずれも代表入りを逃していた。それだけに「今年こそ」の思いは強い。

 NHK杯を控え、「落ち着かない」という野々村。不安を抱えているというよりは、待ち遠しい様子である。コンディションは良い。昨年、一昨年と腰の痛みなどで十分なトレーニングをできなかった冬のオフシーズン。今年は「かなり練習も積んできた」との自負がある。5月の全日本では内村に次ぐ2位に入り、今回の選考争いでは先頭に立っている。3位・加藤との持ち点の差は1.100。4位・武田一志(日本体育大)には2点近く離している。大きなミスさえなければ、間違いなく代表入りできるはずだ。

 この2年、あと少しのところで代表入りを逃していた野々村は、「絶対に入りたい」と安全策を講じる。演技構成では、Dスコア(難度点)をある程度抑える予定だ。跳馬を5.6点のドリッグス、得意の平行棒では屈伸ベーレを抱え込みにして、6.6点に落とすという。全日本は優勝を狙っていたが、このNHK杯はタイトルを度外視するつもりだ。
(写真:会見での明るい表情に充実ぶりを窺わせた)

 現在、世界の頂点に君臨する内村が後継者に指名し、かつてのエース冨田洋之は「素質は私以上」と高く評価する。「内村がそのままいると考えて、(加藤)凌平が上がってきて、2枚目の柱になる。野々村は3枚目の柱にスイッチできるだけの選手になれるはずです。そして、そうあるべきだと思っています」と、野々村を指導する順大の原田睦巳監督が語れば、インカレのライバル校である日体大の畠田好章監督も「内容的には内村と同じぐらいのレベルまでに来ていると思う」と話していた。体操NIPPONの主軸となることを期待される大器が、念願の世界選手権への切符を手にできるのか。持ち味である「美しさと力強さ」を体現し、自らの手で掴み取る。

 一方、加藤は「少しカッコ悪いのですが……」と前置きし、「1、2位を狙わず、3位を守り抜いて代表になる」と語った。あん馬と跳馬のDスコアを下げ、Eスコア(出来栄え点)で勝負する。跳馬は野々村同様にドリッグス。「ロペスで失敗したら意味がない。今回は手堅く」と、Dスコア6.0点の大技には挑戦しない。

 加藤は「勝ちたい気持ちはあるが、ここが本当の勝負ではない」と言う。世界選手権の舞台で内村や野々村と個人総合を争う。それが「本当の勝負」ととらえているのだ。ロンドン五輪、世界選手権で大舞台を経験し、結果も残してきた。4カ月後の世界選手権までに実施する予定の構成であれば、「表彰台に上れる点数は獲れると思う」と自信もある。

 昨年から首を痛めていたが、5月の東日本インカレは欠場し、万全を期した。「痛みもなくなり疲労も抜け、身体も動く」と、この日の公式練習は6種目を通して行い、いつものルーティンで本番を迎える。「調子は良いので、技を入れたい気持ちもある」との欲も覗かせたが、上位2人の点差を考え、ここは我慢する。「まずは代表に入り続け、ステップアップする」。ここ2年の伸びは誰しもが認めるところ。ここで成長の階段を踏み外すわけにはいかない。同い年のライバルとともに代表入りを目指す。

(文・写真/杉浦泰介)