(写真:ここまで20得点以上のゲームが3戦と八村は序盤から力を発揮しているが……)

「ディフェンスのところで甘いところがあるので、そこを修正しなきゃ勝てないんじゃないかなと思います」

 11月13日、ボストンで行われたセルティックス戦に133-140で敗れたあと、ワシントン・ウィザーズの八村塁は悔しさを隠しきれない様子だった。

 

 これでウィザーズは3連敗となり、今季通算2勝7敗。八村は平均14.4得点、5.9リバウンドと好スタートを切っているが、その活躍もまだチームの成績には反映されていない。若手中心で臨んだ今季の苦戦は予想されていたことではあるが、イースタン・カンファレンスの全15チーム中14位(13日時点)という成績にはやはりフラストレーションを感じるだろう。

 

 開幕直後のウィザーズはチーム一丸となったハッスルプレーが目立ち、ダラス・マーベリックス、サンアントニオ・スパーズ、ヒューストン・ロケッツといった強豪とも互角に近い戦いをみせた。それでもなかなか勝ちきれないのは、八村の言葉どおり、やはり守備難がゆえ。最初の9戦を終えた時点で、ディフェンシブ・レイティングはリーグ29位と低迷している。

 

「頑張りどきとか、最後の5、6秒で踏ん張りきれていないところがある。リバウンドでもセカンドチャンスを与えてしまっている」

 八村の説明通り、守備難で知られるアイザイア・トーマスを先頭に、ウィザーズのメンバーは全体にアンダーサイズであることが守備、リバウンドにも影響している感がある。ディフェンスで頼りにできるストッパー的な選手が属していないのも大きい。

 

(写真:ビールは少なくとも2022年までウィザーズでプレーすることになり、チーム作りの核ができた)

 特にブラッドリー・ビール、トーマス・ブライアント、八村が一緒にプレーした時間帯でのディフェンシブ・レイティングは、リーグの全トリオの中で最悪(100分以上をプレーしたトリオの中で)。これでは勝ち星が増えないのも仕方ない。今後も特に上位チームとの対戦では、中盤まではハイスコアの接戦を演じても、後半に引き離されるゲームが多くなるのではないか。

 

 もっとも、今季に関しては、ウィザーズの戦績に必要以上に厳しく注文をつけるべきではないのだろう。エースのジョン・ウォールが故障離脱し、オフに多くのベテランを放出して迎えた2019-20シーズン。チームは完全な再建状態にあり、そのテーマが“成長、発展(Development)”であることは自他ともに認める事実である。

 

 そんなシーズンの中でもポジティブな要素は散見している。ベストプレーヤーのビールはリーダーとして引っ張り、ブライアントも及第点の働き。八村も落ち着いたプレーで即戦力となり、ベンチからはダビス・ベルタンズ、モリッツ・ワグナーなども活躍している。

 

“我慢のシーズン”

 

(写真:ブルックスHCも長期的視野でのチーム作りを掲げている)

 このままいけば、完全なる再建体制は長くは続かないかもしれない。スターとして確立したビールと開幕前に再契約し、来季にはウォールも復帰してくる。予定通りなら、1年後のオフにはFAで好選手が獲得できるだけのキャップスペースも手に入る。さらに八村、ブライアント、トロイ・ブラウンJr.が成長し、加えて来年度のドラフトでも再び上位で好素材が指名できれば……。

 

 そのシナリオ通りに運べば、依然として“トップヘビー(実力のあるチームが上位にだけ集中していて層が薄い)”のイースタン・カンファレンス内で、来季にもプレーオフ進出が狙えるだけのチームに急成長しても不思議はない。だとすれば、来年度のドラフトロッタリー(抽選)をにらみ、今季は再び低迷した方が近未来のためになるという考え方もできるのだ。

 

 良い新人を得るだけではなく、八村を始めとする自前の若手の成長も必要なウィザーズとしては、露骨な“タンキング” (ドラフト上位指名権を狙って意図的に下位に沈むこと)は避けるべきだろう。チームの立ち位置をもちろん熟知しているスコット・ブルックスHCは、開幕前にその点について話していた。

「チームが成長する姿を見るのは楽しい。時間はかかると思うので、我慢も必要。ただ、来年のドラフトロッタリーで好位置にいたいという思いは一切ない。他のチーム同様、レベルアップしながらプレーオフを目指していくよ」

 

(写真:来季にウォール<左>が戻ってくれば、ウィザーズの武器は確実に増える)

 今季中のプレーオフ争いは、さすがに不可能としても、実践の中でチーム全体が向上していく姿が見たいところだ。特にディフェンス強化はやはり必須。今後、八村、ブライアント、ブラウンJr.といった若さと身体能力を備えた選手たちが先頭に立ち、可能な限りの守備力アップを目指すべきだろう。その上でも現在の陣容では勝率は劇的には高まらないはずで、シーズン途中に補強でもしない限り、結局はドラフトロッタリーで好位置につける可能性は高い。

 

 総合的に見て、勝率はカンファレンス最低レベルの現状でも、ウィザーズは依然として適切な方向に進んでいると考える。“トレード有力”と目されてきたビールとの再契約は何よりも大きかった。即座の勝利のために構成されたわけではないロースターの中で、数人の若手タレントが頭角を現していることにも首脳陣は手応えを感じているに違いない。

 

 だとすれば、今後も慌てず、地道な前進を心がけること。厳しい戦いの中でも課題を持って取り組んでいけば、“我慢の2019-20シーズン”は大きな意味がある1年になり得るはずである。

 

杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。著書に『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)『日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価』(KKベストセラーズ)。最新刊に『イチローがいた幸せ』(悟空出版)。
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