二宮: 名古屋場所は横綱・白鵬が連勝こそ43でストップしたものの、3場所連続26回目の優勝を収めました。白鵬とは何度も対戦していますが、強さの秘密はどこにあるのでしょう。
二子山: 足腰が抜群にいいことに加え、軟らかい。こちらがいくら突いても、その力を吸収されてしまうんです。これは一番やりにくい。僕も相手の力を受け止める懐の深さが取りえでしたけど、白鵬はその上をいっていますね。

 大きすぎる横綱と大関の実力差

二宮: 以前、本人にインタビューした際には大横綱の双葉山さんの相撲を理想に掲げていました。相手に先に攻めさせるようにみせて、十分な体勢をつくってしまう。いわゆる「後の先」です。
二子山: まさに、そんな軟らかさがありますよね。白鵬の軟らかさは本当に独特で言葉で表現しづらい。単に軟らかいだけではなく、その中に芯がある。だから攻めに転じると、ものすごい圧力を感じます。

二宮: 今回、白鵬は先輩のモンゴル人横綱・朝青龍の優勝回数(25回)を抜きました。朝青龍も全盛期は手がつけられませんでしたね。
二子山: 朝青龍はスピードと力強さが武器。そして闘争心を前面に押し出すタイプです。取組で制限時間前に仕切っている時から相手をにらみつけてくる。僕はそういうのはイヤだったので、仕切るタイミングをずらしていたんですけど、なかなかうまくいきませんでしたね(苦笑)。

二宮: 朝青龍から白鵬、そして日馬富士と、ここ10年の大相撲はモンゴル勢を中心に回ってきました。モンゴル勢の強さの理由として日本人が失いかけているハングリー精神をあげる人も多いですね。
二子山: それは感じます。日本人全員がハングリー精神がないとは言いませんが、小さい頃から不自由なく生活して高校や大学を経て入ってくる力士が多い。モンゴルや外国人力士は、親のため、家族のために頑張りたいという気持ちが強いですね。その差が出てしまっている面は否めません。今の力士は若い衆でも携帯やゲームを持って遊べますから、番付が低い時にはそういったものを取り上げて、敢えてハングリーな状態をつくる工夫も必要かもしれませんね。

二宮: 貴乃花さんが引退したのが2003年。日本人横綱の不在がもう10年も続いていることになります。“国技”としては異常事態です。
二子山: 朝青龍が出てきた頃、僕も含めて栃東さん、若の里さんなど日本人でも対抗できる若手が何人もいました。それなのに独走を許してしまったのは、本当に情けない話です。現状の勢力図を見ても、白鵬が頭ひとつ飛び抜け、その後に日馬富士が続いている状態です。この2人と大関陣の実力差がありすぎる。逆に大関と関脇、小結、前頭上位の差が正直、ほとんどありません。プラスにとらえれば、大関になるチャンスは誰にでもある。まずは今の大関陣を引きずり降ろすつもりで日本人力士には奮起してほしいです。

二宮: 名古屋場所は稀勢の里の綱とりも話題でしたが、11勝止まりでした。大器と騒がれながら、もう27歳です。率直に言って、彼は横綱になれるでしょうか。
二子山: よく聞かれる質問ですが、僕は期待しています。今回も白鵬の連勝を止めたように、日本人では一番手の力士ですからね。彼が良いのは、今まで大きなケガをしていないところ。だから、まだまだ強くなる要素はあると思います。恵まれた体を持てたことは両親に感謝してほしいですし、それをムダにしないよう一層、精進してほしいです。

二宮: 長年、モンゴル勢と対戦してきて、ずばり日本人が勝つためのポイントは?
二子山: 実はモンゴルの力士は縦の引きに弱い傾向があります。横にいなしても粘っこくついてくるのに、縦に引くと意外とあっさり落ちることが少なくない。僕も白鵬に勝った時はバッと突いて、サッと引いて崩すパターンがほとんどでした。この弱点は他の日本人力士も気づいているでしょうけど、なかなか、それを実践できるところまでいかない。夏場所、名古屋場所と千代大龍が横綱・日馬富士に連勝しましたが、彼のように立ち合いでガンとかち上げて押し込めるような力士が出てくるとおもしろくなるでしょう。

 35歳まで現役はお酒のおかげ!?

二宮: 力士は体が資本ですから、「ちゃんこも稽古のうち」と言われます。実際、どのくらいの量を食べるのでしょう。
二子山: 肉だと1回で普通に4〜5キロは食べましたね。最近の若い力士は小食なので、まだ僕のほうがよく食べる自信があります(笑)。

二宮: 4〜5キロ! それが人並み外れたパワーの源だったんですね。
二子山: 稽古もきつかったですから、なかなか終わってすぐの昼食は食事がのどを通らないんです。でも、体重を増やさないといけない時期は、まさに食事も稽古の一環で食べ終わるまでは昼寝もできません。無理やり胃袋に詰め込んでいましたよ。

二宮: 引退してからも食欲は変わらない?
二子山: いや、さすがに健康のことも考えて、今はダイエット中です。現役時代は183キロで、目標は110キロ台。適度に体を動かしながら、食事もセーブして落としたいと思っています。

二宮: 貴乃花さんも現役時代はハワイ勢に対抗するために体重を増やしていましたが、引退後は一気に減らしましたね。
二子山: 巡業で一緒に移動している時に、親方になった貴乃花さんの食事を見てビックリしましたよ。子ども用の小さなお弁当箱に入れたおかずとごはんを時間をかけてゆっくり食べている。僕らは、その横で特大の焼肉弁当をばかばか食べていたので申し訳ないくらい(笑)。努力して横綱になった方ですから、ダイエットに関しても、ものすごくストイックだなと感動しました。先輩の武蔵丸さんも100キロほどダイエットしていますし、やはり道を極めた人は精神力が強いと感じます。

二宮: 前回、「お酒を楽しむようになったのは30歳頃から」と聞きました。何かきっかけがあったのでしょうか。
二子山: 実は、お酒との付き合い方を教えてくれたのは、今、東北楽天で2軍監督をしているデーブ大久保(博元)さんなんです。デーブさんは競技は違えど、同郷の兄貴分。ある時、本場所中で負けた後に食事に行った際にこうアドバイスされたんです。「1日1回、リセットする時間をつくれ」と。

二宮: 野球はシーズン中は連戦ですし、相撲も本場所は15日間、取組が続きます。切り替えが大事だと?
二子山: そうです。「勝っても負けても、終わったらおいしい食事をして、お酒を飲んで、新たな気持ちで翌日に臨んだほうが、いい結果が出るんじゃないか」と言われました。確かにその通りだなと思って、それからは1日の終わりにお酒を楽しむようになりました。

二宮: お酒でリセットすることで、どんな効果がありましたか。
二子山: 35歳まで現役を続けられたのも、この切り替えを覚えたおかげですね。1日1日、相撲が楽しくとれるようになりました。土俵上でも、それまでは応援してくれる人の顔を思い浮かべながら臨んでいたのですが、これだけだと気持ちが入りすぎる時がある。だから、時間いっぱいになって最後に塩を取りに行く際に肩をリラックスさせて、余計なことを考えず、目の前の一番を楽しむようにしていました。

 雅山2世で土俵を盛り上げる

二宮: 今回、用意したそば焼酎「雲海」はSoba&Sodaに加えて、親方の好きな水割りでも、ぜひ試してみてください。
二子山: 改めてそば焼酎をじっくり味わってみると、香りもいいし、口当たりがいいですよね。楽しい話と一緒に飲めるのも、おいしさを引き立てます。今度、部屋でも弟子にも勧めてみたいと思います。

二宮: 引退して二子山を襲名しました。二子山といえば、理事長にもなった初代の若乃花さん、若貴の父であり、師匠でもある貴ノ花さんが受け継いできた名跡です。
二子山: やはり伝統も実績もある名前ですからね。自分も、それに恥じない親方にならなくてはいけないですね。ゆくゆくは部屋付き親方ではなく、独立して二子山部屋の名前を復活させたいという夢があります。

二宮: 親方には男のお子さんが2人います。将来は相撲の道に?
二子山: 僕は長男が3歳になるまで相撲をとり続けることを目標にしてきました。3歳になって、テレビで相撲を見て力士の名前もたいぶ覚えてきたんです。「将来は相撲とりになりたい」とも言っています。その言葉を聞いた時には、うれしくて涙が出ましたよ。

二宮: 若貴フィーバーが起こったのは、彼らが二世力士だった点も大きかった。二世が脚光を浴びることで、その周りの力士たちも対抗心を燃やして土俵が盛り上がる。最近は二世力士が目立たないのも、人気低迷につながっているのかもしれません。
二子山: 確かにそういった面もあるでしょうね。この先、本人がやりたいのであれば精一杯、サポートはしたいと考えています。ただ現実に息子が、相撲の道に進むとなると複雑な心境もありますよ。やってほしい気持ちと、やめてほしい気持ちが半々です。

二宮: 再び相撲に熱い視線が注がれるような魅力のある力士を、ぜひ育ててください。期待しています。
二子山: そのためには日本各地から、地元のヒーローになる力士をしっかり出していくことが大切だと思っています。僕の故郷である水戸も残念ながら出身力士が途絶えてしまいました。まずは水戸の皆さんにも協力していただきながら、地元の体格のいい子を受け入れて強くしたいですね。力士とともに僕も成長できるよう一生懸命頑張ります。 

(おわり)

<二子山哲士(ふたごやま・てつし)プロフィール>
 1977年7月28日、茨城県出身。水戸農高を経て明大を中退して武蔵川部屋入り。98年7月場所に幕下付け出しで初土俵。幕下、十両でそれぞれ2場所連続優勝を収め、翌年の春場所で新入幕を果たす。00年初場所には小結に昇進し、そこから3場所連続で2ケタ勝利をあげ、同年夏場所後に大関へ。入門から12場所での大関は昭和以降最速タイ記録だった。ケガもあり、大関在位は8場所と短かったが、その後も幕内上位で活躍。06年5月場所では14勝1敗の好成績で優勝決定戦に進んだ。10年9月場所には十両まで番付を落としたものの、12年1月場所では三役(小結)に復帰。13年3月場所で再び十両に陥落し、その場所限りで引退した。現在は年寄・二子山を襲名し、後進の指導にあたっている。三賞は8回(殊勲2、敢闘5、技能1)受賞。通算成績は654勝582敗68休。幕内在位82場所は歴代9位。



★今回の対談で楽しんだお酒★[/color]

日本初の本格そば焼酎「雲海」。時代とともに歩み続ける「雲海」は、厳選されたそばと九州山地の清冽な水で丁寧に造りあげた深い味わい、すっきりとした甘さと爽やかな香りが特徴の本格そば焼酎の定番です。
提供/雲海酒造株式会社

<対談協力>
十割そば・地酒 蔵や
東京都新宿区四ツ谷1−4−2 綿半野原ビル1F
TEL:03-3356-7571
営業時間:
ランチ  11:30〜14:30(月〜日)
ディナー 17:00〜23:30(月〜金)、17:00〜22:30(土、日)

☆プレゼント☆
 二子山親方の直筆サイン色紙を本格そば焼酎「雲海」(900ml、アルコール度数25度)とともに読者3名様にプレゼント致します。ご希望の方はより、本文の最初に「二子山親方のサイン希望」と明記の上、下記クイズの答え、住所、氏名、年齢、連絡先(電話番号)、このコーナーへの感想や取り上げて欲しいゲストなどがあれば、お書き添えの上、送信してください。応募者多数の場合は抽選とし、当選発表は発送をもってかえさせていただきます。締切は8月7日(水)までです。たくさんのご応募お待ちしております。なお、ご応募は20歳以上の方に限らせていただきます。
◎クイズ◎
 今回の二子山親方と楽しんだお酒の名前は?

 お酒は20歳になってから。
 お酒は楽しく適量を。
 飲酒運転は絶対にやめましょう。
 妊娠中や授乳期の飲酒はお控えください。

(構成:石田洋之)
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