27日、東京オリンピック女子ソフトボール決勝が神奈川・横浜スタジアムで行われ、日本代表がアメリカ代表を2-0で下し、金メダルを獲得した。日本は2008年北京オリンピック以来の“連覇”を達成。3位決定戦はカナダ代表がメキシコ代表を3-2で破り、銅メダルを手にした。

 

◇決勝

 上野&後藤、宿敵相手に完封リレー(横浜スタジアム)

日本    2 =0001100

アメリカ  0 =0000000

勝利投手 上野(2勝)

敗戦投手 カーダ(1敗)

 

 日本は息詰まる攻防を制し、2度目の金メダルに輝いた。

 

 13年ぶりのオリンピックファイナルは再び日米決戦となった。日本は上野由岐子(ビックカメラ高崎BEE QUEEN)、アメリカはキャット・オスターマンと先発マウンドには北京オリンピックと同じ組み合わせが上がった。

 

 先攻の日本は1番に起用された山田恵里(デンソーブライトペガサス)がピッチャーへの強襲ヒットで早速出塁した。2番・内藤実穂(ビックカメラ高崎BEE QUEEN)の進塁打で1死二塁のチャンスをつくったが、3番の原田のどか(太陽誘電ソルフィーユ)はサードゴロ、4番の山本優(ビックカメラ高崎BEE QUEEN)はショートゴロに倒れ、先制点は奪えなかった。

 

 その裏、上野は「このマウンドに立つために、13年間、ここまでやってきた。“投げられなくなるまで投げてやる”」と強い気持ちを胸に、マウンドに上がった。だがその裏、いきなりピンチが訪れた。今大会6割4分3厘と当たっている先頭打者のヘイリー・マクレニーをファーストゴロに抑えたが、2番のキャサリン・リードにセンターオーバーのスリーベースを打たれた。

 

 1死三塁の場面、3番のアマンダ・チデスターを空振り三振に仕留めた。だがキャッチャーの我妻悠香(ビックカメラ高崎BEE QUEEN)がボールを逸らす間にバッターは一塁へ。懸命にボールを追いかける我妻はすぐにホームへ送球した。三塁ランナーより一足早くカバーに入った上野がリードにタッチ。アンパイアはアウトを宣告した。

 

 バッテリーミスではあるが、その後の我妻と上野に無駄のない動きが失点を食い止めた。振り逃げのランナーは一塁に残したが、4番のバレリエ・アリオトをアウトコースに逃げる球を投じ、バットで空を斬らせた。

 

 2回も両軍ランナーを出しながら得点は奪えない。特に日本は1死から6番の山崎早紀(トヨタ自動車レッドテリアーズ)に今大会初ヒットとなるツーベースを放つもチャンスを生かせなかった。

 

 先に仕掛けたのはアメリカベンチだった。3回裏、オスターマンが先頭の9番・渥美万奈(トヨタ自動車レッドテリアーズ)に四球を与えると、アリー・カーダをマウンドに送ってきた。北京オリンピックを知るエース格のモニカ・アボットではなく、前日好投したカーダに任せたのだ。日本は得点圏にランナーを進めたが、この回も無得点に終わった。

 

 緊迫する投手戦は続く。上野はバックにも盛り立てられながら、アメリカ打線を切って取る。先頭の8番オーブリー・ムンロの打球はボテボテのゴロ。上野も反応したが、グラブは届かず。サードの山本が軽快にさばき、アウトにした。今大会ノーエラーの守備陣がエースを支えた。

 

 試合が動いたのは4回表だ。5番の藤田倭(ビックカメラ高崎BEE QUEEN)がセンター前ヒットで出塁。6番の山崎が着実に送った。7番の我妻はピッチャーゴロに倒れたが、8番の市口侑果(ビックカメラ高崎BEE QUEEN)がフォアボールを選び、2死一、三塁。9番の渥美を迎えた。渥美の打球はセカンドへのボテボテのゴロ。これが幸いした。送球より早く一塁にヘッドスライディング。一塁塁審が両手を広げてセーフを宣告し、待望の先制点は日本に入った。

 

 3回に続き、4回も三者凡退に抑えた上野を打線が援護する。2死から山本がヒットを放った。ここでアメリカはアボットをマウンドへ送ってきた。ここまで3勝1セーブ、防御率0.00の切り札に対してもバッターボックスの藤田は怯まない。高めのストレートをライト前に弾き返し、ワイルドピッチで二塁に進んでいた山本をホームへ迎え入れた。

 

 5回裏をゼロで抑えた上野だが、6回裏には先頭打者の出塁を許した。この日2本目のヒット浴びたエースに宇津木麗華監督は交代を告げた。チーム最年少20歳の後藤希友(トヨタ自動車レッドテリアーズ)に託す。驚異の奪三振率を誇る後藤は、マクレニーから三振を奪った。

 

 しかしリードにはセンター前に運ばれ、1死一、二塁のピンチを迎えた。続くチデスターにはサードへの強烈な当たりを許した。山本の左手首付近を弾き、打球はショート方向へ。フルベース、あるいは二塁ランナーの生還をも予感させたが、ここでショート渥美が見事な反応でキャッチ。素早く二塁に転送し、飛び出したランナーもアウトに仕留めた。奇跡的なゲッツーが生まれ、失点を防いだ。

 

 最終回のマウンドには再び上野が登場。リエントリー制度により、スタメンの選手は一度の交代に限り再出場が可能だからだ。締めくくりのマウンドを任された背番号17は4番から始まるアメリカの打線をひとつひとつ丁寧にアウトカウントを重ねた。あとひとり――。無観客のため場内からコールは聞こえないが、そう多くのファンが祈ったはずだ。

 

 2ボール1ストライクからの4球目、アメリカの6番デラニー・スポールディングの力のない打球がファウルグラウンドに舞った。ウイニングボールを掴んだのは上野と苦楽を共にしてきた女房役の我妻。この瞬間、日本の13年ぶりの連覇が決まった。

 

 この日もノーエラーで試合を終え、全6試合で無失策だった。鉄壁の守備陣が上野、藤田、後藤の3人体制となった投手陣を支え、連覇の幹となった。宇津木監督は「日本の守備は世界でナンバーワン。そこを忘れてはいけない」と胸を張った。この堅守に加え、打線は出場国最多の6本塁打と長打力も光った。指揮官は「これから日本はどんどん強くなる」と語る。

 

 残念ながら24年パリオリンピックでソフトボールは実施されない。だが、28年ロサンゼルスオリンピックでの復活に可能性を残している。13年ぶりのオリンピック出場、再び頂点に立った上野は言う。

「13年という歳月。諦めなければ夢は叶うことが証明できた。諦めることなく前に進んでいけたらいい」

 

(文/杉浦泰介)

 

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