感涙なしに観るのは困難 「能登半島地震復興支援チャリティー演技会~挑戦 チャレンジ~」

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 プロフィギュアスケーター羽生結弦らが出演する「能登半島地震復興支援チャリティー演技会~挑戦 チャレンジ~」が15日、金沢市内にある「健民スポレクプラザ」で行なわれた。羽生のほか、鈴木明子、宮原知子、無良崇人のプロフィギュアスケーターと能登高校書道部の部員、輪島・和太鼓虎之介のメンバーが堂々のパフォーマンスを披露した。同演技会は能登地区4カ所の自治体、施設の協力を得てパブリックビューイングが開かれ、計380人が演技会を楽しんだ。またNTTドコモの映像配信サービス「Lemino」で配信され、13日の金曜日時点で1万を超える配信チケットが売れた。この収益は演技会の制作、配信にかかる費用を差し引き、全額石川県の災害義援金窓口に寄付される。「Lemino」では、9月30日まで見逃し配信での視聴も可能。チケットの購入はこちらから。

 

Ⓒ矢口亨 氏

 

 オープニングは「輪島・和太鼓虎之介」チームの演奏に合わせて、4名のプロフィギュアスケーターが氷上を滑った。続いて、虎之介チームが単体で、力強い音を響かせた。

 

 前半の目玉は虎之介チームと能登高校書道部員たちによるコラボレーション企画だった。高校生の書道部員たちはダンスと書道を融合させた芸術を堂々と披露した。「自分と大切な人へ」「愛 燦々」「打ち破れ 自分の限界」「愛 縁 最愛 信愛」や「温かいたくさんの贈りもの 溢れる愛は私を強くする」などの言葉たちを力強く、たくましく、美しく記した。

 

 以降、プロスケーターたちがソロで演じた。無良はNHK連続テレビ小説「ちむどんどん」の主題歌「燦燦」。鈴木は「愛の賛歌」、宮原は「スターバト・マーテル」、羽生は「春よ、来い」を披露した。

 

 ソロの演目を滑り切ったプロスケーターたちは、4名による合作、Mrs. GREEN APPLEの「ケセラセラ」を披露した。曲の冒頭、鈴木と宮原の女性2人が可憐なスケーティングを見せた。サビに入ると無良が加わった。彼が優しい表情で滑っていると宮原と鈴木が一度、リンクをおりる。無良はリンクの面積、音のはまりなど様々な制約がある中、見事なルッツジャンプを決めた。

 

<ひとりぼっちだと気付いても、繋がりが消えるわけじゃない>という歌詞のところで、ひとりで滑っている無良に寄り添うように羽生が加わる。

 

 羽生は複雑で細かいピアノ調の旋律に合わせてステップを踏む。華麗ながら力強く氷を捉える。2012年の春に海を渡り、ブライアン・オーサーコーチとトレイシー・ウィルソンコーチのもとで基礎技術を改めて磨き上げた成果の賜物だろう。体が流されることのないステップ、首を残すように舞う姿を見ていると、彼が薄い刃で氷上にいることを忘れてしまう。

 

 ハイドロブレーディングの際、右手の人差し指を立て、まわしながら観る者の心に訴える振りを見せた。珍しい振りではないが、この日は特別に見えた。“今、この瞬間”を超の字がつくほど大事にする羽生らしかった。いつもと同じ振りながら、違いを感じさせるあたりが表現のプロだった。

 

 羽生は歌詞も重んじながら滑るスケーターだ。ゆえに、歌詞を口ずさみながら滑ることは多々ある。しかし、ハイドロブレーディングの後、3人のスケーターが合流したあたりから、「口ずさむ」という柔らかいものではなくなった。叫んでいるようにさえ見えた。

 

 囲み会見で羽生は「チャリティーなのでなるべく予算を少なくして、ほとんどのお金を寄付したかったので、規模を小さくすることが目標でした」と語った。そのため、大人数の観客が入る施設ではなく、地元のスケートリンクを選び、パブリックビューイング形式となった。現地に入れた20組の親子以外の観覧者とは物理的な距離が生じたことは、致し方なかった。しかし、彼らの熱量の前には物理的な距離など、大きな問題ではなかった。

 

 4名がリンク中央に集まり、円陣を組んだ。散り散りになると、羽生は右手の拳で強く自身のハートを数回叩き、思いの強さを主張した。ピアノ調の「ダーン」という低い音に合わせ、左ひざを小さく振り抜き、再びエッジの芯で氷を捉えるスケーティングを見せた。

 

 羽生は、この演技会をこう振り返った。

「僕はなるべくつらかった方々、今現在つらいと思っている方々、いろんなことで悩んでいる方々の近くで滑りたいと思いました。僕たちはその地域の力、現場の空気を感じ、そこの空気の大切さを感じながら滑ります。波動として空気が動いて、“ちょっとでも皆さんのもとに届け!”と思いながら、配信という形で滑らせていただきました」

 

「届け」より、「響け」「轟け」という言葉の方が当てはまるのかもしれない。輪島・和太鼓虎之介、能登高校書道部員、羽生、無良、鈴木、宮原による魂のこもったこの演技会を、感涙なしに観るのは極めて困難である。

 

(文/大木雄貴)

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