羽生結弦、五輪連覇を目指した理由の1つ「説得力」とその使い方
「僕自身、(冬季五輪の)金メダルを2個とりたいと思った理由のひとつとして、連覇したところから、被災地への支援や思いやりをスタートしたいな、という気持ちがあって常に競技時代を頑張ってきました」
2014年ソチ、2018年平昌冬季五輪フィギュアスケート男子シングル金メダリストで、現在はプロフィギュアスケーターとして活躍する羽生結弦。先のコメントは彼が15日、金沢市内にある健民スポレクプラザで行なわれた「能登半島地震復興支援チャリティー演技会~挑戦 チャレンジ~」の公演後、囲み会見で語ったものだ(※演技会のレポートはこちら。9月30日まで視聴可能な見逃し配信による収益は、石川県の災害援義援金窓口に寄付されます。配信チケット購入ページはこちらから。よろしくお願い申し上げます)。
羽生が東日本大震災の被災者であることは、有名な話だ。地元の「アイスリンク仙台」での練習中に被災した。避難の際、スケート靴を脱ぐ時間さえなかったという。大切に、丁寧に使っていたブレードはボロボロになった。
羽生は、連覇がかかった平昌冬季五輪開幕前、「連覇をすると、後々に持つ僕の説得力がかわってくると思うんです」とメディアに向けて語っていた。
彼は2022年、プロに転向した。 精力的にアイスショーに出演し、日本に起きた震災の被災者への励ましの演技や、犠牲になった方々への鎮魂の舞いを披露している。日本テレビ系列「news every.」では被災地に赴き、取材を重ねている。防災の大切さを熱心に訴える姿が印象的だ。
3.11前後に宮城県利府町で行なわれるアイスショー「nottestellata」。場内外に掲載されている防災啓発ポスターのモデルにも羽生はなっている。
後出しじゃんけんのようで大変恐縮だが、私は以前から羽生に関してある仮説を立てていた。羽生が情報番組で「インターネットサイト 重ねるハザードマップ」の重要性を力説していた時。“五輪連覇で勝ち得た説得力の使い道は、これなんだ……”。そう脳裏によぎった。
もしかすると羽生の頭の中には次のような青写真があったのではないか。『五輪優勝(ソチ大会)→五輪連覇(平昌大会)→自身が影響力を持つ→災害の恐ろしさと防災についての情報を発信→五輪連覇達成者なら、少しでも注目してもらえる→少しでも多くの命を守れる』。
2024年9月15日、石川県金沢市で仮説は立証された。羽生は金沢で「やっと自分がプロに転向し、いろんな災害がありますが被災地などに、徐々に思いを馳せることができ始めています」と述べ、さらに続けた。
「僕は震災の支援をしたいと思って、オリンピックを連覇したいと思っていた。良い意味で連覇という知名度を使いたい。今回で言えば、少しでも配信のチケットを買っていただけるように。(資金や予算などの)お金もそうです、注目もそうです。ちょっとでも、ちょっとでも力になれたらいいなと思っています」
羽生は自分の欲だけのために、五輪連覇の説得力は使っていない。人の心の痛みに敏感な彼は、人々を勇気づけるためにその説得力を使っている。命の尊さを知る彼は、少しでも多くの命を守る情報発信のために、その説得力を使っている。
羽生の金メダルは獲得した瞬間より現在の方がより一層、輝きを増しているかもしれない。
(文/大木雄貴)
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