「綺想」の系譜――黒田博樹と高橋純平

 黒田博樹(広島)の復帰後、公式戦初登板は3月29日の東京ヤクルト戦だった。  7回を5安打無失点で切り抜け、今季初勝利をあげた。試合後のヒーローインタビューでとびだした、 「広島のマウンドは最高でした」  という言葉も、名言居士のこの人らしいセリフだった。

決断と注目のとき――黒田とイチロー、大谷と岡本……

 前回、黒田博樹(広島)には文書ではなく、会見の形で広島復帰を語ってほしかった、と書いた。なぜなら、そうすれば、記憶に残る名言が聞けるに違いないから、と。あの時点で発表されていた文書の形では、黒田が一人で考え抜いた、いわば思考の現場とでもいうべきものが感じとれないではないか。と思っていたら、やってくれました。1月15日(現地時間)、自主トレを行っている米ロサンゼルス近郊で自ら口を開いた。果たして、それは名言というにふさわしい内容だった。

黒田博樹という生き方

 この年末年始の日本球界最大の話題といえば、やはり、黒田博樹の広島カープ復帰ということになるのだろう。なにしろ、まだ年末なのに、知人から「おめでとうございます」という連絡が来る。何のことかと思えば、黒田復帰である。年が明けると、「今年1年に限り、カープファンをやらせていただきます」という挨拶も数人にいただいた。それくらい、カープファン以外の多くの野球ファンにも衝撃を与えたニュースなのだろう。

2014年、日本野球の10大事件

<生れきて十八年のわれのこのきほこりを高くかかぐる  田部君子>  最近、お気に入りの歌である(池内紀さんの新著『戦争よりも本がいい』講談社「田部君子歌集」の項より孫引き)。これが、1933年(昭和8年)、当時、満17歳の女性歌人の作と聞いて、二度驚く。なんというか、まっすぐで心地よい。

常識の罠――広島カープとヤンキースの試合から

 確かにセ・リーグもパ・リーグも、ペナントレースの最後の最後まで面白い展開だった。パ・リーグは福岡ソフトバンクが今季最終戦でオリックスをくだして優勝を飾った。ソフトバンク対オリックスは、正真正銘のペナント争いだったが、セ・リーグの広島、阪神は、2位争いである。クライマックスシリーズ・ファーストステージをどちらが本拠地で開催できるか、という争いだ。それも広島が5日の最終戦に勝つか引き分ければ広島、負ければ阪神が甲子園で開催できる、というところまでもつれた。現行のクライマックスシリーズという制度ならではの盛り上がりである。ただねぇ、結果的にそうなったのであって、今のプレーオフのシステムがベストだとは、とうてい思えないのだが。

DeNA・中畑監督と東海大四・西嶋投手を結んでみる

 それが自分の生き方なので、としか言いようがないが、茫然と野球を眺めている。  今日もまた、ニューヨーク・ヤンキースのジョー・ジラルディ監督が、ベンチを出てトコトコ小走りに審判の元へ向かう。「チャレンジ」を要求するのである。メジャーリーグが今季から取り入れたビデオ判定のシステム。

吉田(東海大相模)のスライダー、和田(カブス)のストレート

 1年前、彼のことをどう書いたのだったかな。気になって当欄のバックナンバーを調べてみた。 <ストレートは144〜145キロ。スライダーが鋭い。(中略)2年後にドラフトにかかっても不思議はない>  彼とは東海大相模の右腕・吉田凌である。1年生だった昨夏は、神奈川県大会準決勝の横浜戦で先発。好投したが6回に横浜打線につかまり涙をのんだ。2年生になって迎えた今夏、東海大相模は再び準決勝で横浜と対戦し、リベンジを果たす。吉田は、向上との決勝戦に先発して8回2/3をゼロ封、3安打、20奪三振のド派手な快投を見せた。今夏の甲子園(全国高校野球選手権大会)の主役のひとりに躍り出たと言っていい。

グリエルの気品

 カッコいいなぁ、グリエル。横浜DeNAに新加入したユリエスキ・グリエルである。ご存知のように、「キューバの至宝」と呼ばれる内野手だが、キューバの政策もあって、日本のプロ球団と契約することが可能になった。キューバと言えば、巨人のフレデリク・セペダやレスリー・アンダーソンもそうだけれども、グリエルはちょっと別格である。

田中将大とダルビッシュ、ときどき菊池涼介

「でも僕は無理ですね。ああいう圧倒的な投球はできないので、これからも泥臭く抑えていきます」  もちろん、多少の謙遜、あるいは先輩への遠慮が含まれているのだろう。ただ、本音でもあると思うのだ。声の主は田中将大(ヤンキース)。5月9日(現地時間)のレッドソックス戦で、ダルビッシュ有(レンジャーズ)が9回2死までノーヒットの快投を演じたことを指してのコメントである。

巨人の強さと甲子園の強打者

 えらく大きい、と言っても、ばかに大きい、と言っても、どちらも同じ「非常に」大きいという意味になる。というような主旨の話を、昔、小西甚一先生の古文の参考書で読んだような気がする。言葉というのは不思議なものだ。  えらく、やけに、おそろしく、すばらしく、強い――といろいろ重ねて言ってみてはどうだろう。今年の読売巨人軍である。

話題と名言――田中将大、イチロー、ユーキリス

 巨人の松井秀喜臨時コーチは、右打ちで外野ノックをして、空振りしたそうだ。トスを右手で上げるか左手で上げるか、とか、微妙な技術が関係するらしい。阪神では、掛布雅之DC(ゼネラルマネジャー付育成・打撃コーディネーター)が、精力的に動いているとか。それにしても長い肩書だ。

究極の前田智徳論

 この時期になると、毎年うんざりすることがある。FAをめぐるニュースである。いや、制度そのものをとやかく言うつもりはない。プロの入り口にドラフトという制度があるのだから、FAという制度は、いわば当然のものだろう。そういうことではなく、日本球界独特と思われる慣習が、どうにも気持ちよくないのだ。

田中将大とマイケル・ワカ

 まずは、あの“有名な一球”について、振り返っておこう。10月27日の日本シリーズ第2戦。東北楽天の先発は田中将大、巨人は菅野智之である。試合は田中、菅野ともに譲らず、0−0で進んでいく。そして6回表の巨人の攻撃。負けない大エース、今季24勝0敗の田中が、2死満塁のピンチを招く。迎える打者は、ホセ・ロペス。

広島カープのCS初出場に思う

 このところ、思いがけず知人から「おめでとうございます」と声をかけられる。 「えっ?」 「クライマックスシリーズ(CS)、初出場なんでしょ。良かったじゃないですか」  要するに、広島カープのCS進出を祝ってくださるのである。もちろん、気をつかっていただいて、ありがたい限りなのだが。と、つい奥歯にもののはさまったような言い方をしてしまう……。

プロ野球、ある夜の出来事

 すごいものを見た。時は8月31日、場所は阪神甲子園球場。この日、広島対阪神戦が行なわれていたのだが、折からの悪天候で、1度中断した。いったんは再開できたのだが、6回にさしかかって、甲子園は猛烈な豪雨に襲われた。いわゆるゲリラ豪雨といっていいと思うが、あっという間に内野はプールのようになった。

甲子園とダルビッシュと堂林

 彼らは今、本当に気持ちいいだろうな。羨ましい。あからさまに嫉妬しながら、あるバッテリーを見つめていた。夏の甲子園(全国高校野球選手権大会)予選、西東京大会の決勝、日大三−日野の一戦である(7月28日)。西東京では近年、圧倒的に日大三高が強い。しかも強打でことごとく圧勝する。今年も準決勝まですべてコールドゲームで勝ち上がった。対する日野は、都立高である。西東京の都立高はもう32年間も甲子園に行っていない。西東京において、甲子園は強豪私立高のものなのである。その「巨大な壁」(日野・嶋田雅之監督)に挑んだのが、池田直人−豊澤拓郎の日野バッテリーだった。

統一球、今は昔の物語――腕力か技術か

 今は昔、世の人々はまだ、真相というものを知らされていない時分のことであった。人間は社会を形成しないと生きていけない動物だが、社会を維持するためには、なぜだか知らないが、どうしても権力者が必要になるらしい。そして権力者は、往々にして、肝心なことを社会のメンバーに知らしめないことで、自らの権力を保とうとするのである――。『今昔物語』本朝世俗部の筆者が、今生きていたら、そのようなことを書き記すだろうか。

一球の風景 〜ダルビッシュvs.バーランダー〜

 どんな試合にも、印象に残るこの一球というのはあるものだが、それが注目のエース対決となれば、なおさらだろう。  5月16日(現地時間)のテキサス・レンジャーズ−デトロイト・タイガース戦は、ダルビッシュ有とジャスティン・バーランダーの対決ということで、米国でも関心は高かったらしい。

巨人打線を抑えた投球

 やはりと言うべきか予想通りと言うべきか、セ・リーグでは読売ジャイアンツが首位に立っている。早い話が、案の定、巨人が独走しそうだ、ということですね。まぁ、他の5球団と戦力を比較すれば、当然の帰結ということになるのかもしれない。しかし、世の中はそういう常識だけで動いているわけではない……と思いたい。

日本野球の宿題

 もはや旧聞に属するかもしれないが、まずはWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の例のシーンの話から始めよう。  3月17日(現地時間)の準決勝、プエルトリコ戦。3−0とリードを許した日本は8回裏、ようやく反撃の糸口をつかむ。鳥谷敬(阪神)の三塁打から井端弘和(中日)のタイムリーで1点返し、内川聖一(福岡ソフトバンク)もヒットで続いて、なお1死一、二塁。打席には、4番・阿部慎之助(巨人)。長打なら同点の大チャンスである。

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